連載コラム「日曜に想う」 論説委員・沢村亙
作家の泉三郎さん(89)はその書物を「日本人初の世界一周の大旅行ルポルタージュ」と呼ぶ。
「米欧回覧実記」は明治初期、632日間かけて12カ国を視察した岩倉使節団の報告書である。
産業革命期の米欧の政治、社会制度から世相まで、随行員として執筆した久米邦武の史学者らしい精密な観察分析と明快な論評は、読む者を魅了した。泉さんのようにその足跡を追体験した人も少なくない。
旅も終盤の1873年、使節団はウィーンで万博を見学する。会場では各国が物品や技術を競っていた。
「英国製品は品質に定評があ…